from:吹雪の海に黑豹が 78/80
「腰の断面」
その日は老婆が雑市のように
露地に座っていた
小リスのようにアゴをカクッつかせて
明日の退屈を数えている
俺は新宿へ急いでいた
つまらないウタの話をするためにだ
どういうことになるかは最初から判っていたのだ
新宿駅には沢山のカンガルー達が
サングラスをして跳びはねていた
膝への長い無礼に俺は
弛んだ精神の奥で
恩師加藤先生のユメを考え乍ら
アパートまで勇気をドリブルして行った
川崎の終わった交差点では
巨人の国へ行く途中の人達が
空から海が降ってくるのを
力なく夢想していた
かがんであの時視たのは一体――――
雪だったか?
カエルだったか?
去り行く亀裂の山に立った
吠え狂う一頭の赤いライオン
だったかもしれない